ーーーーーーーこの記事の内容は以前ブログに投稿したものを少し内容を追記しています。

猫の尿管結石はここ数年で増えてきた病気です。というか、おそらく今までちゃんと診断されていなかったというほうが正しいのかも知れません。
アメリカでセミナーに参加したり、日本に来られたアメリカの泌尿器の専門の先生のセミナーなどを聞くと、数年前からアメリカでは猫の尿管結石が増えていて、それに対して尿管ステントという術式がおこなわれているということでした。その後自分でも続けて猫の尿管結石を経験し、この尿管結石に幅広く対応するために尿管ステントの技術を習得するべきだと考え、当時唯一猫の尿管ステントを作っていたInfinityMedicalに連絡をし、別の実習でアメリカに行ったときに、その日程に併せてアメリカで尿管ステントのセミナーをやってもらいました。当時は国内では尿管ステントの手術をされている先生は数名だったと思いますが、この頃から猫の尿管結石を強く意識して来ました。
ただ、残念なことにこの猫の尿管結石を意識されている獣医師はまだ少なく、多くの子がちゃんと診断されないまま命を落としていると思っています。また、現在の尿結石用のフードでは尿管結石の予防はできないと考えています(実際にこの尿石用のフードを食べている子で尿管結石になるこも多く経験しています)。予防が確立されていない病気ですから、尿管結石を治療するためには、できるだけ早期に診断して、適切な治療をおこなうこと以外にはありません。僕の猫の尿管結石に対する考えを書いてみたいと思います。

①ちゃんと診断されている子が少ない
この病気はとても診断の難しい病気です。症状の多くは元気食欲がなくなって、病院で血液検査をしたら腎臓病だと言われたというのがもっとも多いと思いますが、多くの場合は尿管結石ではなく、慢性腎臓病と診断されて適切な治療がされていない子がものすごく多いです。なかには治療に反応しない血尿という症状の子もいます。
何故かというと、血液検査だけでそれ以外の画像診断をされない先生も比較的多いというのが一番の理由ですが、それ以外に猫の尿管結石は非常に小さくレントゲンでは診断できないことが多い事や、エコーで腎盂や尿管の拡張が確認できればある程度の診断が可能ですが、その検査がちゃんと行われていないこと、あるいは尿管結石でも腎盂や尿管の拡張が非常に軽度でエコーでは診断できない場合もある事など様々な理由があります。
当院では血液検査やレントゲン、エコー検査以外に尿管結石が疑われる場合はCT検査なども併用しています。CTは猫の尿管結石の診断および治療方針を決めるのにすごく意味のある検査だと思っています。先日腎泌尿器学会に出席したときに高度医療センターの先生が、尿管ステントの報告をされているときにルーチンでCT検査は行っていないという話しでしたが、その時に北里大学の岩井先生がCTは尿管結石に非常に有意義な検査なのでぜひやってくださいというコメントをされていましたが、僕もそう思います。

②この病気をちゃんと認識している先生が少ない
これは本当に重大な問題ですが、実際に猫の尿管結石が多いと認識されている先生はまだ少数です。最近はやっと学会や雑誌などでも取り上げられるようになってきましたが、まだまだこの病気の事を理解されている先生は少ないです。実際、腎臓病で透析や精査を希望されて獣医師の先生から紹介頂く子や、慢性腎臓病で治療しているが改善しないという理由で転院されてこられる子の中のかなりに尿管結石の子がいます。年齢も様々で一番若い子で6ヶ月の子で尿管の閉塞を起こしている子を見たことがあります。若い場合は先生もおかしいと思って精査をされるかも知れませんが、中高齢以上の子も多いため、それらの子は慢性腎臓病と誤診されてる場合があります。
診断がちゃんとおこなわれない事が多いため、多くの子は慢性腎臓病として内科療法を受けています。ぎりぎりまで内科療法で引っ張られているため、非常に治療のリスクが高くなっていたり、治療しても腎臓の機能が回復しない子もいます。とにかく早めの治療が必要です。時間と共に腎臓の機能は低下していきます。どれだけ早く治療できるかがその後の予後に大きく影響します。アメリカのアニマルメディカルセンターではこの猫の尿管結石は緊急疾患で、診断されたら24時間以内に手術が必要だと言われていました。ほんとうにその通りだと思います。できるだけ早い治療が必要です。時間が経過してしまうと、手術がうまくいっても、その後慢性腎臓病に移行する場合があります。もちろん、同じ尿管結石でも腎臓の数値の上昇がなく、内科療法で結石の排泄を促す治療を行う余裕がある子もいます。ただ、腎臓の数値がかなり上昇している子に関しては緊急疾患なのは間違いありません。
多くの獣医師の先生が、この病気を的確に診断して、早期に適切な治療を受けれる子が増えるのを願っています。

③適切な治療ができる先生が少ない
これは先程の内容と重なりますが、診断もなかなか適切におこなわれていませんが、ちゃんとした治療ができる先生もまだ非常に少ないです。
尿管結石の治療は、腎臓の数値があまり上がっていない場合は内科的に結石の排泄を試みますが、内科療法で結石の排泄ができる子は10%程度と言われています。なので、内科的に治療が出来ない子は外科的な治療が必要になってきます。
外科的治療としては、尿管ステントやSUBシステムなどの尿管バイパス術、尿管の移設(尿管を切除して膀胱に移設する手術)などが必要になります。これらの手術は結石の位置や動物の年齢、残存している腎臓の機能などの様々な要因で使い分けなければなりません。
このあたりを的確に判断して治療できる先生はまだまだ少ないと思います。
またちゃんとした外科手術ができても、術後すぐに腎臓が尿産生をしない場合やちゃんと診断されずに輸液ばかりをおこなわれて過水和(体内の水が過剰になった状態)になっている場合、腎臓の数値が高すぎて麻酔のリスクが非常に高い場合などがあります。その場合に術前に透析をおこなって状態を改善したりすることが必要な場合もありますし、貧血が起こっていて輸血をしないといけない場合もあります。
本当に状況に応じて様々な治療のオプションが必要になってきます。

このあたりがこの病気の難しい部分だと思います。
実際多くの猫がこの病気を診断されず、また適切な治療を受けることなく亡くなっていると思っています。